バイオ炭アスコン 研究開発 04
写真:株式会社 川澄・小林研二写真事務所

#素材配合

#業界初カーボンニュートラル

#独自技術

目指すはCO2削減率
100%超
炭素を活用した
業界初の挑戦

日本道路グループは、2050年のカーボンニュートラル達成に向け、環境ビジョン「Nichido Blue & Green Vision 2050」を掲げています。しかし達成に向けて検討を重ねる中で、研究所内で一つの危機感が生まれました。

「技術開発にかかる時間を考えると、もう余裕はないのではないか」

舗装材料の開発には、一般的に10年近い年月が必要です。さらに、実際の道路で社会実装するまでには、より長いリードタイムがかかります。2050年から逆算すると、従来と同じ時間感覚・工程管理のままでは、目標達成は難しく、こうした現実を前に、研究所は仕事の進め方そのものを見直す決断をしました。

材料開発から性能検証、そして社会実装までを一気通貫で進める。技術の積み上げはそのままに、スピードと進め方を変える。その象徴ともいえるのが、1年で実現した業界初である“カーボンニュートラル舗装”のプロジェクトストーリーです。本記事では、研究所のメンバーが限られた時間の中でどのような判断を重ね、材料配合や性能評価といった技術的な壁にどう向き合いながら、社会実装までたどり着いたのか。開発の裏側から技術者の挑戦に迫ります。

バイオ炭アスコンとは

バイオ炭アスコンとは、木材を炭にしたバイオ炭を配合したアスファルト舗装材です。成長過程で空気中のCO₂を吸収した木を炭にすることで、アスファルト舗装内に炭素を長期間閉じ込めることができます。道路をつくりながらCO₂を減らして「カーボンニュートラル」を実現した業界初の技術です。従来の工法と同じ方法で施工できるため、現場で働く方もスムーズに作業ができます。また、品質や耐久性を維持したまま環境負荷を下げて、地球にやさしい道路舗装が可能となりました。

  • A.K.さん
    技術研究所課長
    1999年入社。舗装材料の開発担当者として、材料の選定・配合検討から、施工性・品質評価、CO₂削減効果の算定方法の構築までを一貫して担当。本プロジェクトでは、N.Tさんとともに開発チームを牽引した。
  • N.T.さん
    技術研究所係長
    2012年入社。実験計画の立案や進捗管理、データの取りまとめ、外部発表論文の執筆などを担当。本プロジェクトでは、試験施工計画の立案から実装までを担い、プロジェクト全体の推進を担った。
  • T.H.さん
    技術担当
    2019年入社。バイオ炭を舗装材料として成立させるため、配合設計に関わる室内試験の工程管理、実務を担当。実験条件の整理やデータの蓄積を通じて、配合設計の精度向上を実現した。
  • S.K.さん
    技術担当
    1991年入社。バイオ炭アスコンの室内試験を担当。供試体の作製から各種試験を担い、長期供用性を見据えた品質検証を支えた。
MEMBER
CHAPTER 01

Q.このプロジェクトが生み出したものとは? A.業界で初めて、
カーボンニュートラルを達成した舗装材

A.K.さん

2050年カーボンニュートラル達成目標が掲げられた時、最初は「厳しいんじゃないか」と感じました。日本道路では、高耐久舗装など、これまでも舗装技術の高度化に取り組んできましたが、目標を達成するには、これまでの延長線上の技術だけでは足りない。残された時間もわずか。一つ、象徴となるような技術開発が必要なのではないか——それが、今回のプロジェクトの出発点でした。研究所内では、「どんな技術なら」「どんな方法なら」と検討が始まりました。

N.T.さん

まさにそうです。特にアスファルト舗装は、原油を原料としているため、長く「カーボンニュートラルは難しい」とされてきました。だからこそ、従来と同じ発想のままでは限界があるとも感じていました。そこで注目したのが、バイオ炭という材料です。CO₂を「減らす」のではなく、「固定化する」。この発想なら、難しいとされてきた領域にも踏み込める可能性があると気がついたのです。その気づきが、このプロジェクトを一気に前に進めるきっかけになりました。

T.H.さん

アスファルト製造時にも多くのCO₂が排出されますが、炭素を固定化したバイオ炭をアスファルト混合物に混ぜることで、環境負荷を大きく下げられます。カーボンニュートラルという社会的価値に加え、清水建設のバイオ炭技術と日本道路の舗装技術を融合できる点に、このプロジェクトの意義と面白さを感じました。

S.K.さん

私は、研究所に配属されて2年目で関わったプロジェクトでしたが、短期間で大量の試験を繰り返す必要があり、かなり大変でした。それでも、カーボンニュートラルという社会的意義の高いテーマに、社会実装まで関われたことは大きな経験になりました。

CHAPTER 02

Q.このプロジェクトで求められたものとは? A.通常の10分の1の期間で、
技術を社会実装へとつなげること

N.T.さん

一般的に、アスファルト関連の技術開発は10年近い期間をかけて進めることが多いです。しかし今回は、カーボンニュートラルを実現できる技術を早期に社会実装する必要があると考え、1年間で形にするという目標を立てました。2050年までは意外と時間が短い。スピード感を持って進めないと目標達成は難しいと判断しました。開発途中では「材料の配合設計」と「CO₂削減効果の証明」が大きな壁でした。

T.H.さん

そうですね。配合材料の選定では、当初代替候補をフィラーとして検討していましたが、国の基準を満たすことができませんでした。1年という限られた期間で戸惑っている時間はありません。速やかに粒度が近い砂への切り替えを決断し、再検討を進めました。チーム全体で「とにかく進めるしかない」という空気感で取り組みました。

S.K.さん

配合のバランスを考えるのも大変でしたね。バイオ炭はアスファルトの吸水性が高く、配合率を高くするとアスファルトを多く必要とするためにコストが高くなってしまいます。一方で、配合率が低すぎるとカーボンニュートラルを達成できません。1%ずつ段階的に配合率を上げて試験を重ね、機能とコストのバランスから3%が最適解という結論に至りました。

T.H.さん

CO₂削減効果の実証実験も難しかったですね。バイオ炭がアスファルト舗装の中で炭素の固定を維持しているのか証明する必要がありました。アスファルト製造時の高温環境下でバイオ炭が燃えてしまうのではという懸念に対し、ハンドトーチバーナーを用いて200℃程度の高温にさらしたバイオ炭を研究施設に送って、炭素の固定量の変化を測定、加温前後でバイオ炭の炭素固定量に変化がないことを確認しました。

N.T.さん

先の加温試験では、火の強さや温度、バーナーとの離隔距離を統一する必要がありました。火加減を完全に同じ条件にするのは非常に難しいため、どの程度の差なら同じデータとして扱えるかを検証しながら進めていきました。

T.H.さん

短期間での開発では、供試体を作製して養生期間を置き、その間に次の配合計画を進めるなど、複数のプロセスを並行して進める必要がありました。他にも複数のプロジェクトを進めていたため、スケジュール管理やマネジメント能力が上がったと感じています。プレッシャーを感じるというよりも、目の前のことを淡々と取り組むことに必死でしたね。正直、1年間で無事に走り切れたことに驚き正直、1年間で無事に走り切れたことに驚き

A.K.さん

バイオ炭についての知識がほとんどない状態からのスタートでしたね。基本的な用語から学び、バイオ炭製造現場へ足を運んで理解を深めました。未知の領域でしたが、新しい技術を生み出せることに喜びを感じました。

N.T.さん

バイオ炭という新しい材料への抵抗はほとんどなく、社会的意義のあるプロジェクトを任されたプレッシャーより、先入観を持たずに「とりあえずやってみよう」という気持ちが強かったです。メンバーに対しても「私たちを信じてついてきてください」という姿勢をA.K.さんと2人で見せました。当研究所のチャレンジに寛容な風土も、短期間のプロジェクトを走り切れた理由のひとつだと思います。

S.K.さん

新技術の開発には失敗もつきものですから、「もしかしたら商品化が見送りとなるかもしれない」という不安が脳裏をよぎることもありましたが、無事完成形となって実際の道路にも導入された時は、達成感もひとしおでした。

CHAPTER 03

Q.プロジェクトが切り拓く未来とは? A.時代のニーズに応え続けるインフラ技術開発へ

N.T.さん

現在、この技術は国道での試験施工にも採用され、カーボンニュートラルを実現できる業界唯一の技術として注目されています。バイオ炭アスコンの技術は様々な工法に応用できると考えています。今後は、既存の高耐久アスファルト混合物にもバイオ炭を組み合わせていく計画です。

A.K.さん

清水建設との技術交流においても本プロジェクトが終わった今もなお、路面測定技術などの新たな協業を進めています。同社との技術交流では、建築や橋梁など幅広い分野の視点を得られることが刺激になっています。お互いが持つ専門性を共有しながら成長していきたいですね。当社は全国128万キロの道路に関わる舗装のプロとして、日本のインフラを支えてきた自負があります。その知見を提供できることは大きな価値だと思っています。

T.H.さん

道路は、身近なものだけれども「どう作っているのか」が分かりづらいですが、交通や物流を支える「縁の下の力持ち」です。今回のプロジェクトを通して、改めて日本の道路インフラに貢献していることを実感しました。今後も社会のニーズに応じて新しい技術を生み出さなくてはいけません。今後は国内だけではなく、世界各地に技術を発信していけるような技術研究所を目指したいです。

S.K.さん

当社は「日本道路」という会社名のとおり、日本になくてはならない会社だと思っています。その魅力を少しでも感じていただけたら嬉しいです。道路業界以外の分野からも新しい視点を持った方々と一緒に働くことで、固定観念にとらわれない技術開発ができるのではないかと期待しています。

N.T.さん

当社は「エコ・ファースト企業」として環境省からも認定されています。環境問題への取り組みは大きなテーマであり、挑戦できる環境が整っています。チャレンジ精神を持った学生の皆さんと一緒に研究開発ができれば嬉しいです。土木を全く知らない状態から始めても、興味を持って「とりあえずやってみよう」という姿勢があれば、沢山のことを学べると思います。

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