






1ミリが
“一流の走り”を決める、
究極の舞台づくり
広大な芝生や砂場を有する競馬場。一見すると、単なる平らな地面に見えるかもしれません。しかし、その下には緻密な技術が詰まっています。砂馬場だと、厚さ450ミリの砂の層の中に上部200ミリの特殊な肥料が混ぜ込まれ、その上から特殊な土を引き流すというケーキのような層構造になっているのです。
なぜ、ここまでの緻密さが必要なのか。それは、わずか1ミリの違いがレースの勝敗を左右するからです。カーブの傾斜角度、路面の硬さ、水はけの良さ―。わずかな違いが、馬の走りやすさを大きく変えてしまいます。また、時速60キロを超えて走る馬にとって、地面の小さな凹凸や硬さの違いが、重大な事故につながる危険性もあります。
2025年に開設100周年を迎えた京都競馬場。記念すべき日に向け、2023年の完成を目指して始動した大規模改修工事は、グループ会社である清水建設とともに、日本道路が総力を結集して挑んだプロジェクトでした。最新の測量技術と熟練技術者の経験を組み合わせ、時には図面以上の品質を目指して試行錯誤を重ねた、技術者たちの挑戦に迫ります。
現場概要

- 工事名
- 京都競馬場整備工事(馬場工区)
- 工 期
- 2020年9月2日~2023年3月10日
- 発注者
- 日本中央競馬会
- 施工者
- 清水建設・日本道路共同企業体
- 工事場所
- 京都市伏見区葭島渡場島町32
- 工事概要
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- 芝生馬場整備工事 102,000㎡
- 砂馬場整備工事 41,800㎡
- 障害馬場整備工事 514㎡
- その他付帯工事
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H.O.さん主任技術者東京競馬場での経験を持つ馬場づくりのスペシャリスト。工事全般の技術指導と品質管理の責任者として、これまでにない馬場を目指して現場をリード。
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M.N.さん渉外担当者京都での豊富な実績を持つ。入札時の技術提案から地域との調整まで、プロジェクト全般の調整役として活躍。
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Y.I.さん工事担当者K.N.さんとエリアを分担しながら、施工管理業務を担当。次世代の競馬場工事を担えるように経験を積んだ。
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K.N.さん工事担当者Y.I.さんとエリアを分担しながら、施工管理業務を担当。長年の土木関係の仕事経験も活かしながら、品質管理試験も行った。
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Y.O.さん営業担当者清水建設との共同企業体の構築段階から参画。材料調達や品質確認、施工体制の構築を支援。
このプロジェクトが生み出したものとは? 競馬文化の未来をつくる、世界に誇れるフィールド

その通りですね。たくさんの人を魅了し、熱狂させる舞台を進化させる仕事でした。しかも、今回は開設100周年に向けた記念すべき改修工事。地域の方々とともに歩んで、歴史を重ねてきた競馬場が大きく変わることに戸惑う声も上がりました。工事に入る前、工事に入ってからも地域の方々との対話を重ね、さまざまな調整を行いました。100年を迎える競馬場として、地域との共生を守ることも私たちの重要な使命でした。

色んな人の思いが実を結び、リニューアルオープンを迎えてから、本当に嬉しい評価をたくさんいただきました。地域の方から「若い人がたくさん集まるようになった」、騎手や調教師の方々から「馬が走りやすくなった」「騎乗も安定する」という声を直接聞けた時は、現場での苦労が報われた気がしました。検査前は苦労の連続でしたが、H.O.さんの指導のもと、高い精度の施工を実現できました。


今回の工事で特に印象的だったのは、チーム全員が常に「馬のため」「競馬ファンのため」という視点で動いている姿でした。インフラ整備が影響を及ぼす範囲の広さ、技術が施設や文化をつくり変える力を持つことを学ぶ機会となりました。

皆さんの努力が実を結び、実際のレースでも高い評価を得続けていますね。「雨天時でも馬場状態が安定する」「コースによる有利不利が少なくなった」など、私たちの技術力が認められたことを実感しています。H.O.さんが言われたように、「本当に強い馬が勝つ競馬場になった」という評価は、この仕事の本質的な価値を示していると思います。

このプロジェクトで求められたものとは? 技術力を結集し、限界点を突破する挑戦

競馬場の馬場づくりは、通常の舗装工事とは異なる難しさがあります。「平坦性」「均一性」「クッション性」という3つの性能を同時に求められるんです。ですが、砂の層の硬さ一つとっても明確な基準値がありません。特殊な硬度測定機器を使いながら、経験と勘を頼りに試行錯誤を重ねました。ただ、土質が違えば、同じ方法でも全く異なる結果になります。過去の東京競馬場での経験が活かせない場面が多く大変でしたね。

大変ということで言えば、H.O.さんが言われる技術的な難しさに加えて、立地条件も大きな課題でした。2つの川に挟まれていて、地下水位が極めて高い場所。水はけの良さと適度な水分保持という、相反する性能が求められました。完成したエリアで予想以上に水はけが悪くなり、作り直しを余儀なくされることもありました。


私も、水はけ問題には本当に苦労しました。測量から施工まで、すべての工程で高い精度が必要で…ここまで技術レベルの要求が高い仕事は初めてでした。特に印象的だったのが、広大な面積をミリ単位の精度で均一に仕上げていく作業です。最新の測量技術を駆使しながらも、最後は人の感覚と経験に頼る部分が多く、技術の奥深さを実感しました。また、雨や気温の変化で刻々と変わる地盤状態に対応するため、時には夜通しの確認も必要でした。

K.N.さんがおっしゃる通り、気象条件との戦いは本当に大変でした。毎日3回の品質検査、含水率の確認など、細かな管理業務の連続でした。数値だけでは判断できない状況で、先輩方がどのように意思決定をしているのか。その過程を間近で見られたことは、技術者としての大きな学びになりました。

このプロジェクトが切り開く未来とは? 競馬場を超えて拡がる技術の可能性

この現場で得た技術は、さまざまなスポーツ施設工事に応用できます。Jリーグクラブの練習場では、すでに実践もしています。芝生の生育環境や排水性能の確保が重要課題となるため、競馬場で培った技術が大いに役立ちました。また、陸上競技場のトラック施工でも、均一性や水はけの技術が活きています。図面通りに作ることが必ずしも最善とは限りません。より良い方法を追及する姿勢が大切です。

駐車場だけでも25万㎡という広大な面積を有する京都競馬場では、砂の入れ替えなど、細かな補修工事も重要な仕事です。「メンテナンス性が格段に向上した」との評価をいただき、現在も維持管理工事を継続して任せていただいています。次の世代にも引継ぎ、継続的な関係をさらに発展させていきたいと考えています。

この現場で学んだ精密な施工技術は、どんな工事でも活かせる経験となりました。最新技術と従来の技能をバランスよく組み合わせる考え方は、今後の建設業界全体でも重要になってくると感じています。


私もこの現場での経験は、かけがえのない財産になりました。特に、目に見えない部分への配慮や、使う人の安全を第一に考える姿勢は、どんな現場でも忘れてはいけないと実感しています。

皆さんの努力の結果、京都競馬場は国内の他の競馬場からも高い評価をいただいています。共同企業体との協働を通じて、技術面だけでなく多くの学びと経験を得ることができました。この貴重な経験を未来へつなげるため、新たなフィールドへ積極的にチャレンジしていきます。さらに、より多くの技術者への技術伝承の機会として、継続受注も目指していきたいと考えています。

プロジェクトの最大の意義は、これからの競馬文化をつくるインフラ整備にありました。京都競馬場では、年間に何度も大きなレースが開催され、名勝負を繰り広げてきました。その舞台を支えることは、私たち技術者にとって大きな誇りであり、責任でもあります。
また、高品質な馬場の実現は、競走の公平性を確保することにも直結します。完成後、発注者の日本中央競馬会様から「本当に強い馬が勝つ競馬場になった」という最高の評価をいただきました。私たちは、競走馬に負担が少なく、均一で安定した馬場を実現させたことで、純粋な実力勝負を可能にしたのです。