






日本を走るすべての
車の安全を守る
技術を結集した
20年に1度の挑戦
私たちが当たり前のように使うブレーキ。その安全性は、埼玉県熊谷市にある一つの試験場で厳密にチェックされている。日本で販売されるすべての自動車は、この交通安全環境研究所の試験場で性能認証を受ける必要がある。その重要インフラの改修工事を手掛けたのが、日本道路だ。
独自開発の『スキッドパネル工法※』による路面施工、新たな散水システムの導入、そして環境に配慮した水の再利用システム―。独自技術をさらに進化させ、新たな挑戦を続ける日本道路の総合力が、このプロジェクトには詰まっている。さらに、20年に1度しか訪れないこのプロジェクトにはもう一つ重要な役割があった。それは、貴重な特殊工事の経験を、次世代の技術者たちへ継承すること。この貴重な経験を確実に受け継ぐことは、日本の自動車の安全を未来へとつなぐ重要な使命でもあった。
現場概要
- 工事名
- 自動車試験場ABS試験路改修等その他工事
- 工 期
- 2023年4月21日~2024年12月27日
- 発注者
- 独立行政法人交通安全環境研究所
- 工事場所
- 埼玉県熊谷市御稜威ヶ原
- 工事概要
-
- 舗装版撤去工: 5,582㎡
- 低μ路撤去工: 1,586㎡
- 低μ路舗装: 2,512㎡
- 中μ路舗装: 506㎡
- 高μ路舗装: 900㎡
- ISO路: 650㎡
- 車道舗装: 4,039㎡
- 構造物撤去工: 1式
- 区画線工事: 1式
- 排水構造物工: 1式
-
T.Y.さん現場代理人2005年入社。現場代理人として、発注者との打ち合わせを担当し、本社部門と綿密な連携を取りながらプロジェクトを統括。
-
T.S.さん監理技術者2013年入社。監理技術者として現場に常駐し、日々の工事管理を担当。若手の育成を担いながら、電気設備など土木以外の分野とも連携。
-
T.H.さん技術営業本社技術部門の要として、受注前の技術提案を行う段階から参画。従来の海外製から国産セラミックタイルへの変更という技術革新を主導した。現場での技術指導も含め、一貫した技術サポートを担当。
-
S.T.さん工事担当者2023年入社。写真管理などの基本業務を担当した。T.S.さんの下で基礎的な技術を習得。
-
N.E.さん技術営業支店技術営業課として、受注前からの技術提案に関与。施工方法の検討を担当し、現場と本社の技術部門との橋渡し役として奔走した。現場でのトラブルシューティングにも従事。
このプロジェクトの社会的な意義とは?
重要インフラの大改修
日本の自動車安全を支える、

環境技術の面でも大きな一歩を踏み出しましたね。独自のノズルを新たに改良することで、散水した水を効率よく回収・再利用するシステムを新たに構築し、環境負荷の低減という現代的なニーズにも応えることができました。路面技術と環境技術、2つの側面からの技術革新に挑戦できる現場は、特に若手技術者の成長の場として大きな意味を持ちました。

そうですね。このスキッドパネル工法は、日本道路が世界で初めて開発した技術です。20年前の施工実績があったからこそ、今回さらに進化させた技術を提案することができました。ベテランと若手技術者の協働により、技術の継承と発展にも繋がりました。日本の自動車産業の安全性を支えるインフラ整備に貢献でき、大きな誇りを感じています。


私の10数年のキャリアの中でも、最も要求水準の高い現場でした。通常の舗装工事とは比較にならない品質基準に加え、電気設備や散水システムなど、土木以外の技術分野との連携も必要でした。新しい技術への挑戦と、それを確実に形にしていく責任。技術者としての真価が問われる現場でしたね。

入社2年目の私にとっては、技術者の原点となりました。先輩方から「珍しい工事に携われて良かったね」と声をかけていただく度に、この現場の重要性を実感しました。特に印象的だったのは、新しい技術的な課題に直面するたびに、先輩方が真摯に向き合い、解決策を見出していく姿です。その過程に参加できたことは、私の大きな財産です。

このプロジェクトで求められたものとは?
実現した独自の技術革新
多様な技術を統合し、

このプロジェクトの最大の特徴は、本社・支店・現場が一体となって進める必要があった点です。国産セラミックタイルへの材料変更は、「材料を変えて終わり」という単純なものではありませんでした。これまでは輸入に頼っていたため、供給の安定性や緊急時に課題を抱えていました。切り替えにあたって、これらを解決できる意義もあったのです。本社の技術部門、支店の技術者、そして現場の職員が、それぞれの知見を持ち寄り、品質管理の向上と供給の安定化、さらには耐久性の向上まで実現できました。

その通りです。現場では「水は低い方にしか流れない」という、一見すると単純な原理が重要なポイントでした。通常の道路では1.5%以上の勾配をつけるところを、0.5%という極めて緩やかな勾配で施工する。ミリ単位の精度が要求される中で、情報化施工を活用しながら、本社の技術者から現場の若手技術者まで、全員が知恵を出し合いました。

月2回の定例会議では、そうした技術的な課題を徹底的に議論しましたね。本社・支店・現場のメンバーが一堂に会し、時には工場での品質管理の方法から、施工時の温度管理まで、細部にまで検討を重ねました。私も技術営業課の立場で参加していましたが、現場で起きている課題を共有し、みんなで解決策を考えていく。そんな前向きな議論の場が、このプロジェクトの推進力になりましたね。

散水システムの改良も、大きな技術革新でした。
試験時の視認性を向上させるため、最初の15分は遠くまで水を噴射して路面を濡らし、その後は、水量を抑えて低い位置から散水する新方式を採用。この仕組みを実現するため、電気設備業者との綿密な打ち合わせを重ねました。打ち合わせには本社の技術者も加わって、三者一体で検討を進めました。さらに水再利用システムの構築では、本社・支店の設計担当者と現場が一丸となって環境に配慮したシステムを実現。複雑な排水経路の設計から施工方法まで、チームの総合力が試されました。


本当に、この現場では細かい作業の積み重ねが重要でしたね。例えば、480枚ものパネルをミリ単位で調整する作業1つとっても、どれだけ丁寧に進めていくか。その過程で思わぬ課題も出てきましたよね。

はい。特に印象的だったのは、夏場の施工時の課題でした。当初、パネルを保護するために養生テープを使用していたのですが、異常な暑さで接着剤が路面に固着してしまい、要求される摩擦係数に影響が出そうになりました。

そんな事もありましたね。あれは、本当に苦労しました。さまざまな除去方法を試行錯誤する中で、S.T.さんも含めチーム全員でアイデアを出し合いました。「これまでの経験にとらわれず、新しい発想で考えてみよう」と。

チームの現場力が本当に生きた場面でしたね。何種類もの除去剤を試して最適な方法を見出すまで、みんなで知恵を出し合い、一丸となって取り組みました。

プロジェクトが切り拓く未来とは?
世界へ拡がる誇り
受け継がれる技術、

今回得た技術とノウハウは、確実に次世代へ引き継いでいかなければなりません。現場での作業手順やトラブル対応の記録はもちろん、映像での記録も残すことで、より効果的な技術継承が可能になります。このプロジェクトは、日本道路の技術力の結集であると同時に、さらなる進化への重要な一歩となるはずです。

しかもこの技術は、一般工事にも応用できる可能性を秘めています。
特に高精度な施工管理や、複数分野との連携で得たノウハウは、どんな現場でも必ず活きてきます。若手の指導にも、より一層力を入れていきたいですね。

確かにそうですね。日本道路には、このABS試験路以外にも世界に誇れる特殊工法があります。今回の経験を社内の技術研修などでしっかりと共有し、会社全体の技術力向上につなげていきたい。
そして、それらを確実に次世代に引き継ぎながら、さらなる技術革新にも挑戦していきたいと考えています。


今回、先輩方から技術を受け継いだ者として、今度は自分が中心的な役割を担えるよう、そのために、日々の学びを大切にしていきたいと思います。

実はこの技術、すでに東南アジアなどでニーズが高まっているんです。S.T.さんたち若手技術者の皆さんには、この現場で培った技術を携えて、世界にも挑戦してほしいですね。そのためのバックアップ体制も、しっかりと整えていきます。

日本を走るすべての自動車、日本の安全を支えるこの技術を、次の世代へ、そして世界へと広げていく。それが私たちの使命だと考えています。
今回のプロジェクトは、その重要な一歩となったはずです。

このプロジェクトは、通常の舗装工事とは全く異なりました。日本で走る自動車は、国産・輸入車を問わず、この試験場で認証を受ける必要があります。その重要インフラが、20年に1度だけ迎える改修にあたり、私たちは2つの大きな技術革新に挑戦しました。
1つは、従来の海外製タイルを国産セラミックタイルへ切り替えること。もう1つは、散水システムの刷新です。この改修工事は、自動車の安全性能を支えるインフラの整備と、技術の国産化という2つの使命を担っていました。